真夏に雪が降った。
いずれ止むだろうとしばらく待ってみたが、
雪が降り止む気配はまったくなく、
築数十年の家の屋根には、生クリームホイップをかけすぎたケーキみたいに
うずたかく雪が降り積もっていった。
水分をたっぷり含んだ雪は、
見た目は綿菓子みたいに軽そうなのに、
屋根からは悲鳴のようなきしむ音が聞こえ始める。
それでも僕は屋根の雪かきを放棄して家の中でじっとしていた。
だって、今は真夏じゃないか。
こんな雪は夏の日差しがあっという間に溶かしてくれるさ。
ところが、雪はふり続けた。
気がつくと、窓から差し込むはずの光も、積もった雪にさえぎられて、
家の中は暗闇に包まれた。
完全な暗闇だ。
さすがに怖くなった僕は外の様子を確認しようと玄関に向かった。
玄関に向かいながら、自分の歩みにあわせて廊下がきしむ音と、
雪の重みで家全体がきしむ音が
強烈な不協和音となって、僕を包み込んだ。
恐怖のあまり、耳をふさいで小走りで玄関に向かう。
ドアのノブに手をかけて、勢いよくドアを開ける。
ところが、ドアはピクリとも動かない。
体重を思いっきりかけてドアを押してみたが、
ドアの向こうから、100人くらいの浅黒く日焼けした豪腕の男達が
ドアを押さえつけているみたいだ。
もちろん、そんなはずはない、ドアの向こうには誰もいない。
うずたかく積もった雪たちが、ドアを完全にふさいでいるのだ。
どうして、もっと早く外に出て雪かきをしなかったのか?
そう後悔した瞬間に、築数十年の家は、雪の重荷に耐え切れず、
僕を飲み込んで崩れ落ちた。